愛宕山ケーブル駅跡にて突然の死

朝の9時半(早い)に起きて3人で愛宕山に登った。ぼくとニケと、もうひとりにはこのブログで名前をつけていなかったので、仮にゼロとしておく。ゼロはニケと同じく学部の友人である。ゼロは前日のサークルの飲み会後で二日酔いに襲われていた。

 

ボーイスカウトの活動で小学生の頃に何度か登ったことがあったはずだが、映像的記憶がほとんどない。薄ぼんやりと頂上に鐘があったような気がしていて、ということはやんちゃな同級生がみだりに撞いてたしなめられていたりしてもおかしくないと思えば、どうもそうであったように思えてくる。いまググってみたところ、頂上で鐘がつけるという情報はなかった。となるとやんちゃをしてしかられた同級生の存在があやしくなってくる。そもそもボーイスカウトにいたのかも定かではないし、そもそもぼくは生きて存在しているのだろうか。大抵このようにして記憶や情報は改変され捏造されていくのだろうけれども、今回は鐘も過去の記憶も実在も関係なく、それどころか山頂を目的ともしていない。山中にある廃墟を目指している。戦時中不要不急線として廃止された鋼索鉄道愛宕駅跡である。愛宕駅跡は、水尾別れという中腹の分岐点付近から脇道を行くとある。これはネットで多く共有されている情報なのでおおむね信用してよい。

 

昔[要出典]はさほどに感じなかったが、滅多に山登りしない者にとって愛宕山はまあまあしんどい。それもそのはずで、小学6年生男子の平均体重は38.4kgという。ぼくはいま60kgあまりだから、当時を基準にすれば質量差20kg質量比1.5である。身体にかかる負荷を比較するのに、差をとるべきか比をとるべきか、はたまた何の関数に放り込むべきか、不勉強のためわからない。まあ20kgの米袋を抱えて登れといわれても、90kgに太ってから登れといわれても大変であることに相違ないから、とにかくしんどい。地元の消防団によって100mごと計40箇所に設置された注意喚起用の立て看板を励みにしてがんばるしかないよ。看板には「体調ヨシ、水分ヨシ、塩分ヨシ、トイレなし」といった韻を踏もうとしたものやら「火遊びはイケない(ハート)ヤラセない」のようなアルコールの入ったおやじみたいなものやらさまざまあって、創意工夫に富んでいた。すべてをみたわけではないが、最優秀作品は「谷間に見とれて堕ちるなよ へへへ」としたい*1。くだくだしく解説はしないが、意味の二重性がきれいに出ていておもしろい。

 

台風の爪痕か、道中多くの大木が根こそぎにされていた。見た目がいたいたしいのみならず、われわれの目的からいえば、どこで本道を外れなければならないのかという目印が失われているということをも意味していて、困惑した。よくわからないのでおおざっぱに見当をつけて行く。どこまで行っても目的が見当たらず不安が広がり出したころに開けたところに出た。どうも人が立ち入っている様子がないと思って探索してみると、川勝氏の墓なるものがあった。墓前には紫と白の造花らしきものがあった。供えられていたのか、ただ落ちていたのかは判然としない。おおかた道を間違えたのだろうという方向で意見がまとまり、戻る。登山道を外れるのが遅すぎたようだから、もっと手前のほうから攻めていく。するとコンクリート造りのしょぼい廃墟がみえた。これが下っ端だとすれば、このまま行けばボスがいるのではと思ったところへ奥の道からカップルとおぼしき2人組がやってきた。やはりこの道でよさそうだ。

 

果たして今度こそ目的物があった。一見すると2階建てのコンクリート建造物で、入ってみるとちゃんと階段があって、さらに窓枠で作ったはしごで2階から屋上にまで上れるようになっている。天井から時折雨水がしたたり落ちてくる。見ると鍾乳石のようなものが垂れ下がっている。目線をおろしてみると、一部の床がつるつるに光沢を帯びている。石筍は見当たらなかった。窓から外を見ると、プラットフォーム跡とまっすぐ遠くまで下っていく線路跡があってなかなか見応えがある。さあこれでひととおり見終わったと思ってプラットフォームへ出てみると、なんと建物の地下にまだ構造が存在するのを発見した。実は3階建てだった。これはゲームでいうところの裏ボスやと叫んで、せっかくだから地下探索することを選ぶぜと一目散に駆け下りていく際に小さい段差を飛び降りたのだが、これが最低最悪の一手だった。

 

地面に1畳くらいのコンクリートの囲みがあって、そこに両足で着地した。と思ったらじゅぼぼといやな音がして、両足のふくらはぎより下が1万数千円するトレッキングシューズもろとも泥水にまみれになっていた。ゲーム・オーバー。さすがは裏ボスとでもいうべきか、巧妙な罠である。

 

線路をたどって帰りかけたが、段差を滑り落ちたニケの爪が割れて大ダメージを受けていた。かわいそうに。もうめちゃくちゃだよ。6つあるトンネルを2つこえたところで登山道に戻ってきたので、わざわざ再び線路跡を探し出すことなくそのまま下山した。

 

下山してから次のバスまで時間があったので、麓の清流に靴のまま入っていった。かなり冷たかった。一時期[要出典]着衣状態で風呂に入ることにはまっていたのを思い出した。服が濡れる瞬間のあの侵されていく感覚、すっかり侵されてから重くまとわりつく感じがくせになっていたのだ。ところで夏にここで川遊びなどすれば気持ちがよさそうだ。一度はこういうところで裸になって、秘境ごっこをしてみたい。さすがにひとけがあるころで公然とやるのはまずいし、秘境ごっこの本義をとらえ損ねるおそれがあるので、山奥の滝などが妥当なところだろう。

 

帰り際、ゼロに誕生日プレゼントを渡した。ストロングゼロ ダブルレモン味 350mL缶24本セットである。われわれは以前よりこれに何度か手を出しており、そのたびに嘔吐と激しい頭痛を経験するのだが、それゆえにこの苦悶はわれわれの思い出を特徴づけているともいえる。おいしくのんでもらえたら幸いであるが、二日酔いになってもそれはそれでおもしろいのかも知れない。

 

*1:へへへは本来もっとつづめて書いてあって、山を表したものと思われる